協立グループ50周年記念シンポジウムを開催しました。テーマは「医療と介護をつなぐまちづくり」~住み慣れた地域で最後まで暮らすために~でした。このシンポジウムは先日お亡くなりになった、みなまた健康友の会会長の中山さんが、「ぜひやりましょう。」とおっしゃっていたもので、その思いを受け継いでの開催となりました。
水俣地域では介護保険が始まる2000年以前から、私たちの先輩方や、介護や福祉、医療に携わるみなさんが「在宅ケア研究会」を立ち上げ、活動を続けてこられました。国が目指す、「地域包括ケアシステム」が他の地域よりスムーズに進んでいるのはこうした長年の取り組みがあったからかもしれません。先輩たちに感謝です。
※地域包括ケアシステム・・・高齢者が重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、「住まい・医療・介護・予防・生活支援」が一体的に提供される体制を指します。
日頃現場で奮闘されているシンポジストのみなさんから、最近こんな相談が増えてきていますや、問題点などもご報告いただきました。地域包括ケアセンターの山内さんからは、地域包括センターの役割や最近問題になっている「80・50問題」についてお話がありました。これは、80代の高齢の親が、50代の子どもの生活を経済的、精神的に支え続けることで、世帯全体が孤立し、経済的困窮や親子共倒れに陥る社会問題です。50代の子どもたちは、いわゆる「就職氷河期世代」であり、非正規雇用を余儀なくされた人も多く、安定した生活基盤を築くことが難しかった背景があります。こうした現状は、社会のひずみが長年放置されてきた結果とも言えるでしょう。
実際に私たちの病院でも高齢の親に介護が必要になったけれど、さまざまな理由で生活を十分に支えられず、結果的にネグレクト状態に陥ってしまったという話をよく耳にするようになり、そうしたケースが増えてきていると実感しています。
ケアマネージャーの中村さんからは、ケアマネが直面する、「シャドーワーク」と呼ばれる問題についてお話がありました。「シャドーワーク」とは介護保険上の本来の業務には含まれていないものの、利用者の生活を支えるためにケアマネージャーが実際に行っている“見えない仕事”のことです。たとえば、家族との細やかな調整や、制度のはざまにある支援、緊急時の対応など、日々の現場で必要とされる多くの業務がこれにあたります。
こうした業務は、利用者の安心した暮らしを支えるうえで欠かせないものですが、制度上の評価や報酬には反映されにくく、ケアマネージャーの負担が大きくなっている現状があります。ケアマネージャーのみなさんも日々悩みながら業務に取り組まれているのだと感じました。核家族化が進むなか、地域の支え合いや、見守りなど必要不可欠ですね。
当院の光永顕彰副院長からは医療機関で訪問診察を行い、看取りなどを経験する中で、今後ますます重要になる取り組みとして、「ACP(アドバンスケアプランニング)」について紹介がありました。ACPとは、自分が大切にしていることや、望む医療、ケアについて、家族や医療・ケアチームと前もって繰り返し話し合い共有する取り組みのことです。本人の意思を尊重した最期を迎えるために、日頃からの対話がとても大切になります。水俣芦北郡医師会ではこのACPを地域に広めるために「私の人生会議ノート」を作成し、医療機関などで配布、住民のみなさんへの普及を積極的に進めています。こういう取り組みがもっと市民の中に広がれば、安心して暮らせる地域に近づけそうですよね。
今回のシンポジウムは初めての取り組みでしたが、地域のみなさんに、水俣地域の医療、介護、行政の現状や取り組みを知っていただき、自分の身近なこととして考えるきっかけになれば、そしてそれがよりよいまちづくりにつながることを目指しました。寄せられた感想からは、リニューアル頑張ってとの激励や、定期的にこのような学習を開催して欲しいなどうれしいご意見もありました。地域全体で学び合い、支え合う空気が少しずつ広がっていることを実感できる、温かいシンポジウムとなりました。参加してくださったみなさんありがとうございました。